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東京高等裁判所 平成3年(ネ)805号 判決

主文

一  里う、昭子及び久一郎の控訴に基づき、原判決主文第一項及び第三項を次のとおり変更する。

1  里う、昭子及び久一郎はミナミ建設に対し、連帯して次の各金員を支払え。

(一)  金六五五六万六〇七五円

(二)  右(一)の内金三三二一万三七六七円について

これに対する昭和六一年六月二九日から支払済みまで年六分の割合による各金員

(三)  右(一)の内金三二三四万八二〇〇円について

(1) 内金二六〇〇万円に対する昭和六一年一一月一四日から支払済みまで年九分の割合による金員

(2) 内金三五〇万円に対する昭和五八年一二月二七日から、内金三〇万円に対する同年一一月二〇日から、内金四〇万円に対する同年一二月三〇日から、内金七七万円に対する同年一二月二〇日から、内金七四〇〇円に対する同年一二月六日から、内金一万二〇〇〇円に対する同年一一月二一日から、内金三九〇〇円に対する昭和五九年一一月三〇日から、内金四七〇〇円に対する同年一一月三〇日から、内金三〇〇〇円に対する同年一月九日から、内金一一〇万円に対する同年五月二六日から、内金二一万七二〇〇円に対する同年五月三一日から、内金三万円に対する同年六月三〇日から各支払済みまで年六分の割合による金員

2  ミナミ建設の里う、昭子及び久一郎に対するその余の請求を棄却する。

二  ミナミ建設の控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二分し、その一をミナミ建設の負担とし、その余を里う、昭子及び久一郎の負担とする。

四  この判決は、第一項1に限り仮に執行することができる。

理由

第一  当事者の求めた裁判

一  ミナミ建設

1  原判決中ミナミ建設の敗訴部分を取り消す。

2  里う、昭子及び久一郎(以下、この三名を総称するときは「永井ら三名」という。)はミナミ建設に対し、連帯して次の各金員(原判決認容額を含む。)を支払え。

(一) 金九五九七万一二一七円

(二) 右(一)の内金三三二一万三七六七円に対する昭和五八年八月一七日から昭和六〇年六月一一日まで年六分の割合、同月一二日から支払済みまで年三割の割合による各金員

(三) 右(一)の内金六二七五万七四五〇円に対する次の各金員

(1) 内金二七〇〇万円に対する昭和五八年三月三〇日から昭和六〇年六月一一日まで年九分の割合、同月一二日から支払済みまで年三割の割合による各金員

(2) 内金一三五〇万円に対する昭和五八年一二月二七日から昭和六〇年六月一一日まで年九分の割合、同月一二日から支払済みまで年三割の割合による各金員

(3) 内金一七二万九二五〇円に対する昭和五八年八月一七日から昭和六〇年六月一一日まで年九分の割合、同月一二日から支払済みまで年三割の割合による各金員

(4) 内金三〇〇万円に対する昭和五八年九月三〇日から昭和六〇年六月一一日まで年九分の割合、同月一二日から支払済みまで年三割の割合による各金員

(5) 内金三〇万円に対する昭和五八年一一月二〇日から昭和六〇年六月一一日まで年九分の割合、同月一二日から支払済みまで年三割の割合による各金員

(6) 内金一五八万円に対する昭和五八年一二月三〇日から昭和六〇年六月一一日まで年九分の割合、同月一二日から支払済みまで年三割の割合による各金員

(7) 内金七七万円に対する昭和五八年一二月二〇日から昭和六〇年六月一一日まで年九分の割合、同月一二日から支払済みまで年三割の割合による各金員

(8) 内金七四〇〇円に対する昭和五八年一二月六日から昭和六〇年六月一一日まで年九分の割合、同月一二日から支払済みまで年三割の割合による各金員

(9) 内金一万二〇〇〇円に対する昭和五八年一一月二一日から昭和六〇年六月一一日まで年九分の割合、同月一二日から支払済みまで年三割の割合による各金員

(10) 内金一〇〇〇万円に対する昭和五九年二月二八日から昭和六〇年六月一一日まで年九分の割合、同月一二日から支払済みまで年三割の割合による各金員

(11) 内金三九〇〇円に対する昭和五九年一一月三〇日から昭和六〇年六月一一日まで年九分の割合、同月一二日から支払済みまで年三割の割合による各金員

(12) 内金四七〇〇円に対する昭和五九年一一月三〇日から昭和六〇年六月一一日まで年九分の割合、同月一二日から支払済みまで年三割の割合による各金員

(13) 内金三〇〇〇円に対する昭和五九年一月九日から昭和六〇年六月一一日まで年九分の割合、同月一二日から支払済みまで年三割の割合による各金員

(14) 内金一一〇万円に対する昭和五九年五月二六日から昭和六〇年六月一一日まで年九分の割合、同月一二日から支払済みまで年三割の割合による各金員

(15) 内金二一万七二〇〇円に対する昭和五九年五月三一日から昭和六〇年六月一一日まで年九分の割合、同月一二日から支払済みまで年三割の割合による各金員

(16) 内金三万円に対する昭和五九年六月三〇日から昭和六〇年六月一一日まで年九分の割合、同月一二日から支払済みまで年三割の割合による各金員

(17) 内金三五〇万円に対する昭和五九年六月三〇日から昭和六〇年六月一一日まで年九分の割合、同月一二日から支払済みまで年三割の割合による各金員

3  里う及び昭子の請求をいずれも棄却する。

4  永井ら三名の控訴を棄却する。

5  訴訟費用は、第一、二審ともに永井ら三名の負担とする。

6  右2につき仮執行宣言

二  永井ら三名

1  原判決中永井ら三名の敗訴部分を取り消す。

2  ミナミ建設の永井ら三名に対する請求をいずれも棄却する。

3  ミナミ建設の控訴を棄却する。

4  訴訟費用は、第一、二審ともミナミ建設の負担とする。

第二  事案の概要

一  本件各請求

1  原審甲事件のミナミ建設の請求は、いわゆる等価交換方式によるマンション建設の合意に基づく貸付金及び諸費用等(その明細は、原判決別紙「貸金・諸費用等目録」((以下、単に「貸金・諸費用等目録」という。))記載のとおり)並びにこれらに対する約定利息及び遅延損害金の支払を求めるものである。

2  原審乙事件の里うの請求は、原判決別紙「本件物件目録」記載二の建物について所有権に基づき原判決別紙「本件登記目録」記載一の所有権移転登記の抹消登記手続を求めるものであり、昭子の請求は、同物件目録記載三(一)の建物について所有権に基づき同登記目録記載二の所有権移転登記の抹消登記手続を求めるものである。

なお、昭子は、当審において、同物件目録記載三(二)の建物の明渡及び賃料相当損害金の請求(原判決主文第三項2及び3関係)について訴えを取り下げた。

二  当事者間に争いのない事実及び付随的争点に対する判断

次のとおり付加、訂正するほかは、原判決「事実及び理由」の第二の二項(三枚目裏三行目から七枚目表九行目まで)記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

1~5《略》

6 同六枚目裏七行目から同七枚目表六行目までの全文を次のとおり改める。

「11 永井ら三名は、従前の相殺の主張を平成六年三月七日の当審第一五回準備手続期日において次のとおり整理し、改めて次の(一)及び(二)につき相殺の意思表示をした(永井ら三名が右の相殺の意思表示をしたことは争いがない。)。

(一)  自働債権(一)

本件三(二)建物の不法占拠による賃料相当損害金

(原判決別紙損害金目録一の3及び四の3関係)

債権者………昭子

期 間………昭和六〇年九月六日から平成五年一月末日

金 額………三八一万九八三三円(月額四万三〇〇〇円)

受働債権……貸金・諸費用等目録二1の和解金の元本

相殺適状……自働債権のうち、昭和六〇年分(一六万四八三三円)につき同年一二月末日、昭和六一年分(五一万六〇〇〇円につき同年一二月末日、昭和六二年分(前同)につき同年一二月末日、昭和六三年分(前同)につき同年一二月末日、平成元年分(前同)につき同年一二月末日、平成二年分(前同)につき同年一二月末日、平成三年分(前同)につき同年一二月末日、平成四年分(前同)につき同年一二月末日、平成五年一月分(四万三〇〇〇円)につき同年一月末日

(二)  自働債権(二)

駐輪場建設妨害による損害金

(前記損害金目録一の4及び二の1関係)

債権者………永井ら三名(不真正連帯債権)

期 間………昭和五九年一二月一日から同六〇年七月末日

金 額………八二〇万円(駐輪場開業の遅延に基づく逸失利益((月額九〇万円、合計七二〇万円))、工事遅延による諸費用の増加額((五〇万円))、ミナミ建設が破壊した建設機械につき永井らが賠償を余儀なくされたことにる損害((五〇万円)))

受働債権……貸金・諸費用等目録二1の和解金の元本

相殺適状……昭和六〇年七月末日」

7 同七枚目表九行目末尾の次に行を改めて以下のとおり加える。

「13 すゑ子は、平成六年一月九日死亡し、その長女昭子及び長男久一郎が相続によりすゑ子の権利義務を承継した。なお、本件等価交換合意に基づいて永井らが負担する債務は連帯債務であるところ、すゑ子の債務が右両名に承継されたことから、結局永井ら三名が連帯債務を負担することとなつた。

(以上、当事者間に争いがない。)」

三  主たる争点

1  ミナミ建設が本件等価交換合意に基づき永井らに請求し得ると主張する貸金及び諸費用について、これを本件等価交換合意により永井らの負担に帰せしめ得るか、その場合の弁済期並びに約定利息及び遅延損害金の率に関する規定の適用の有無(甲事件請求原因)

この点に関し、ミナミ建設は、永井らに対して請求している貸金及び諸費用はいずれも本件等価交換合意に基づいて支出されたものであるところ、本件は永井らが正当な理由なく同意せず事業が成立しなかつた場合に当たるので、右合意八条(2)により昭和六〇年六月一二日期限の利益を喪失して弁済期が到来したから、同日までは約定の年九分(貸金については年六分)の割合による利息、同日以降は約定の年三割の割合による遅延損害金の支払義務を負うべきである旨主張するのに対し、永井らは、右合意九条ただし書により留保された解約権に基づいて正当に解約したのであるから、八条(2)の規定は適用されない旨主張する。

2  貸金・諸費用等目録記載の各金員について、支出の有無及び永井らに請求し得る金額(甲事件請求原因)

ただし、同目録一の貸金の元本、二の1のうち二六〇〇万円、二の5、7、8、9、11、12、13、14、15、16は、ミナミ建設が貸付又は支出したことについて争いがない。

3  貸金・諸費用等目録二2記載の設計料について、商法五一二条に基づく報酬として請求できないか、その場合における相当報酬金額(甲事件請求原因)

この点に関し、ミナミ建設は、商人であるから、その営業の範囲内において他人のために行為をなしたときは商法五一二条に基づいて報酬を請求し得るところ、本件等価交換合意に基づいて永井らのために建築確認申請に必要な図面一式を作成したので、永井らに対してその報酬を請求し得るというべきであり、その報酬額は、作成した図面・計算書等の量及び内容に照らせば、一三五〇万円をもつて相当というべきである(なお、永井らの主張に係る設計料を請求しない旨の特約は否認する。)と主張するのに対し、永井ら三名は、右主張に対し、ミナミ建設が商人であることは認めるものの、その余の事実は否認し、ミナミ建設は、永井ら四名に対し、設計図面等は自社において作成するので別途請求しない旨約した旨主張する。

4  貸金・諸費用等目録二の17の債権についての消滅時効の成否(甲事件抗弁)

5  永井らが相殺の自働債権の発生原因として主張するミナミ建設の不法行為の成否並びにこれによる損害賠償請求権の存否及び損害額(甲事件請求原因)。

なお、永井らは、受働債権の元本との相殺を主張するのに対し、ミナミ建設は、民法五一二条、四九一条によりまず利息から相殺充当すべきである旨主張する。

6  ミナミ建設のため本件二建物及び三(一)建物について経由された各所有権移転登記に関する登記保持原因の存否(乙事件抗弁)

この点に関し、ミナミ建設は、本件等価交換合意に基づく永井らに対する債権を担保するため、右各建物の所有者であつた里う及び昭子との間で譲渡担保権を設定する旨約した旨主張するのに対し、両名は、右の約定を否認する。

7  本件等価交換合意の解約条項は黙示的に解約されたか、あるいは信義則等により解約権の発生が妨げられる事情が存するか(乙事件再々抗弁)。

本件等価交換合意の九条ただし書には、前記二項の4(二)のとおりの解約条項が存するが、ミナミ建設は、右合意成立後二か月以内に借家人(牛込及び藤沢)との間で立ち退きに関する同意を得られなかつたものの、その後においても両当事者は、本件等価交換合意に基づいてこれを遂行するための行動をしてきたのであるから、右解約条項は、黙示的に解約されたとみるべきであり、仮にそうでないとしても、借家人の立ち退き問題が解決しなかつたのは永井らが故意に妨害したからであるので、永井らが解約を主張するのは信義則に反するし、また、右合意に基づいて種々の事項を遂行してきたミナミ建設にとつて突然解約されれば、不測の損害を被ることになるので、解約し得るのはやむを得ない場合に限られると解すべきところ、本件においては右のやむを得ない事情は存しない旨主張し、永井らは右のような黙示的解約の事実及び解約権の行使を妨げる事情の存在を否認する。

第三  証拠《略》

第四  当裁判所の判断

一  主たる争点1ないし3について

次のとおり付加、訂正するほかは、原判決八枚目表四行目から一五枚目表二行目までに記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

1  原判決八枚目裏二行目の「貸金及び諸費用」の次に「のうち少なくとも三ないし五条に基づいて支出された金員について」を、同三行目末尾の次に「問題は、右のほか、同合意に基づいて支出されて永井らの負担に帰すべき貸金及び諸費用の全般にわたつて右の規定が適用されるか否かであるが、条項の上においては、約定利息を付すべき金銭債権が特定・明示されており、それ以外の貸金・諸費用についても適用し得ることを窺わせるような表現にはなつていないこと、年九分の割合による利息は必ずしも低率ということはできず、しかも、マンション建設という事業の性質上、多額の金員が支出されることが多い上、長期間経過後に清算されることもないわけではないから、契約当事者に不測の損害を被らせることになりかねないこと、一方当事者は右事業を専門とする建設業者であるから、支出金の取扱について特別の定めをするのであれば、その解釈・適用に疑義を生じないように配慮するのが通常であると考えられることなどの諸点にかんがみれば、明定された範囲を超えて、拡張ないし類推して適用することには慎重でなければならない。もつとも、右事業のために支出した金員についても、商人がその営業の範囲内において立て替えた金員であれば商法五一三条二項により商事法定利率による利息を請求することを妨げられず、本件における諸費用は右の性質を有している(ミナミ建設の主張事実も右の点を包摂しているとみることができる。)ので、支出の日から年六分の割合による利息を請求し得ることになる。したがつて、本件において後記認定の永井らの負担に帰すべき貸金・諸費用のうち、貸金・諸費用等目録二1記載の和解金は本件合意書五条に基づくものとして約定の年九分の割合による利息・遅延損害金を請求し得るが、それ以外のものは三ないし五条に該当せず、したがつてこれらについては商事法定利率年六分の割合による利息・遅延損害金を請求し得ることにとどまる。」を加える。

2  同九枚目表四行目末尾の次に「この点に関し、ミナミ建設は、本件等価交換合意に基づきマンション建設計画のために支出した費用はすべて永井らの負担に帰せしめ得るとの前提の下に諸費用を請求しているけれども、目的が達成できず中途清算を要する場合に、ミナミ建設が自己の都合により支出した経費や、目的達成のために不必要な事項に関する費用までを永井らの負担とするというのが両当事者の合理的な意思であるとは考えられないから、ミナミ建設において永井らに請求し得るのは、必要やむを得ない支出、換言すれば、マンション建設という目的との関連で相当な範囲内の経費に限られると解すべきであり、そのように解することが契約当事者の合理的な意思に沿う所以である。」を加える。

3  同九枚目表九行目末尾の次に「もつとも、九条ただし書の適用が排除され、あるいはこれに基づく解約権の行使が制限されるような事情があれば別異に解しなければならないが、後に主たる争点7について判示するとおり、本件において右のような事情が存するとは認めることはできない。また、ミナミ建設は、本件等価交換合意のように等価交換契約の締結に至るまでの間長期にわたり高額の資金を要する契約において、同契約成立前に契約の中止が確定した場合には右確定した時に清算する旨合意されたものと解するのが契約当事者の意思に合致するので、本件等価交換合意に基づく金員の支払については不確定期限が付されていたものであるところ、永井らからの解約の申し入れにより右契約の中止が確定したので、これがミナミ建設に到達した昭和六二年六月一二日の翌日をもつて永井らは遅滞に陥つたと解すべきである旨主張する。しかし、期限の定めは、法律行為の履行等、当事者にとつて重要な事項を規定するものであり、通常は二義を許さないように明確に定めるものであるから、本件等価交換合意のように明文をもつて定められてない以上、特段の事情がない限り期限の定めがないものと解さざるを得ないし、ミナミ建設主張のように解することが契約締結の当事者の合理的意思に沿うものと認めるに足りる特段の事情は存しない。」を、同一〇行目の「従つて、」の次に「本件においては、本件合意書八条(2)により永井らが期限の利益を喪失してその弁済期が到来したと解する余地はなく、」を加え、同一二行目の「右送達」を「右送達による催告に基づく付遅滞の効果が生ずる時点(本件等価交換合意に基づく債務のうち消費貸借債務の性質を有するものについては催告後相当期間が経過した日、その余の債務については催告到達の日)」に改める。

4  同九枚目裏二行目から四行目までの全文を次のとおり改める。

「(四) 本件等価交換合意に基づいて永井らが負担する債務が連帯債務であることは永井ら三名においても争わないところである。」

5  同一〇枚目表一〇行目の「これと併せて同社主張のとおり」を「これに一〇〇万円を加えて、合計」に改め、同裏五行目末尾の次に「そして、原審におけるミナミ建設代表者尋問の結果によると、永井の側では二六〇〇万円しか支払わない旨明言しており、森に対して一〇〇万円多く支払つたことは永井らも知らなかつたというのであり、原審証人川口保彦の証言によると、森の要求を了解して一〇〇万円を上乗せしたのは、爾後における同人の協力を期待してのことであつたというのであるから、右一〇〇万円についてまで永井らの負担に帰せしめるのが相当ということはできない。」を加える。

6  同一〇枚目裏八行目から同一一枚目裏七行目までの全文を次のとおり改める。

「4 貸金・諸費用等目録記載二2(首都建築設計事務所 設計料)

《証拠略》には、本件マンションの設計料としてミナミ建設が株式会社首都建築設計事務所(以下「首都建築設計」という。)に対し、昭和五八年五月二五日に三五〇万円、同年一二月二七日に一〇〇〇万円をそれぞれ支払つたものと記載されている。そして、ミナミ建設代表者は、エム・エー建築企画株式会社(代表者は青木常雄。以下「エム・エー建築企画」という。)の下請である首都建築設計に本件マンションの設計をさせた旨述べている。

ところで、《証拠略》によれば、本件マンションの建築については二回にわたり建築確認申請をし、昭和五八年九月八日(第一回目)及び昭和五九年六月二八日(第二回目)に建築確認を得ているが、第一回目の申請に際しては、建築主をエム・エー建築企画、設計者を株式会社エム設計(代表者は牟田忠信。以下「エム設計」という。)としているのに対し、第二回目の申請に際しては、建築主を株式会社和田工務店及びエム・エー建築企画、設計者を株式会社GA建築設計者としており、首都建築設計の名は掲記されていない。当時作成したという図面は《証拠略》(作成者はエム設計)として提出されており、ミナミ建設代表者はこれをもつて第一回目の確認申請に添付したものであると説明しているが(《証拠略》)、第二回目の確認申請に添付した図面は提出されておらず、首都建築設計の作成したという図面がどちらの確認申請にどのようにして利用されたのかは明らかではないし、原審では、実際に作業をしたのが首都建築設計であつたので、同社に設計料を支払つたと述べていたのに対し、《証拠略》は同社が作業をした分野の領収証であり、エム・エー建築企画からも別途領収証を徴している旨述べるなど、必ずしも一貫した供述をしていない(エム・エー建築企画の領収証は提出されていないし、その金額も明らかでない。)ので、どの程度の作業量に対するものとして前記金員を支払つたのかも不明である。

また、《証拠略》によると、右の青木常雄及び牟田忠信は、いずれも元ミナミ建設の従業員や役員として同社と密接な関係にあつたものであり、エム・エー建築企画は、「ミナミ建設株式会社東京支社」が「青木工営株式会社」を経て現在の商号となつたものであること、エム設計は右図面が作成されるより以前の昭和五六年に「名立株式会社」に商号変更されていたことが認められ、これに照らすと、エム・エー建築企画・青木常雄、牟田忠信・エム設計、首都建築設計は、いずれもミナミ建設と極めて密接な関係にあることが看取され、はたして本件マンションの設計料として《証拠略》に記載されたとおりの金員が授受されたものと認定できるかは問題がないわけではない。

そして、前掲各証によれば、本件マンションの設計はミナミ建設の設計担当者が行うものとされていたと認められることに徴すると、右一三五〇万円をそのまま永井らの負担に帰せしめることには躊躇せざるを得ない。

しかし、金額はともかくとして、設計図の作成がマンション建設に必要な事柄であることはいうまでもなく、ミナミ建設の費用負担のもとに図面が作成されて建築確認申請に利用されていること自体は疑いないことであるから、右の設計図の作成に要した費用についても、本件等価交換合意の清算時に諸費用の一つとしてて清算の対象となるものというべきである。永井らは、設計図面等はミナミ建設において作成するので別途請求しない旨約した旨主張するが、前掲各証拠によれば、ミナミ建設が設計図等を自社において作成する旨言明したことまでは認められるものの、それが費用負担まで不要とする趣旨でないことは明らかであり、他にこれを請求しない旨約したことを認めるに足りる証拠はない。そして、前判示の諸事情、殊に、関係人とミナミ建設との関係、現に証拠として提出されてその内容を把握し得る図面は第一回目の確認申請に用いられたものの一部にすぎないことなどに照らせば、本件において前記金額のうち必要やむを得ないものと認められる金額、すなわち、永井らの負担に帰せしめることのできる相当な金額は三五〇万円と認めることができる。

なお、ミナミ建設は、当審において設計料に関する請求の根拠として商法五一二条による商人の報酬請求権を予備的に主張するが、前記の合意に基づく請求とは実質的に根拠を同じくするばかりでなく、結局は商法五一二条に所定の相当報酬額も前記と同様の考慮の下に判断することになることを考慮すれば、これにより請求し得る金額も前判示の三五〇万円を超えるものではなく、重ねて請求することはできないというべきである。」

7  同一一枚目裏九行目の「甲三八、」の次に「四〇の一、二、」を、「同一二枚目表三行目末尾の次に「すなわち、右根抵当権設定登記(その前提としての抵当権設定登記及び同仮登記の抹消登記を含む。)は、直接的には本件等価交換合意に伴う費用を捻出するための手段であつたとしても、それは本来ミナミ建設において自己の責任により調達すべき事業資金について永井らの協力を得たという意味を有するにすぎないとみることができ、これにより借り入れた資金を用いて右合意に基づく支出に充てた場合には、その具体的な費目に応じて永井らに負担を求めれば足りるのであるから、資金調達の手段としての登記手続費用までを永井らの負担に帰せしめることが相当か否かは疑問がある。そして、右根抵当権は、本件マンション建設事業の資金のためにのみ利用されるとは限らないのであり、現に《証拠略》によると、ミナミ建設は右根抵当権を利用して本件マンション建設事業とは関係のない資金を銀行から借り入れていることが認められるのであつて、このような事情を併せ考慮すると、右根抵当権設定登記手続費用を永井らに請求し得るものと解することはできないというべきである。」を加え、同一二枚目表六行目の「右3に判示のとおり」を「前記第二の二3、4に判示の経緯で本件等価交換合意が成立した際に」に、同七行目の「ので」を「ことは乙一五、四九、証人早崎士規夫により認められるところで」にそれぞれ改める。

8  同一二枚目表一二行目から同裏三行目までの全文を次のとおり改める。

「8 貸金・諸費用等目録記載二6(オバタ調査工事 ボーリング調査料)

《証拠略》によると、ミナミ建設において本件マンション建築のためにオバタ調査工事株式会社をしてボーリング調査を行い、少なくとも昭和五八年一二月三〇日に四〇万円を右調査料として同社に支払つたことが認められる。

ミナミ建設は、右同日に一五八万円を支払つた旨主張し、甲一及び三八にはこれに沿う記載があるけれども、前掲川村証言によれば、右の四〇万円は手付金というのであり、残金の領収証は紛失したというのであるから、一五八万円全額が右同日に支払われたとの記載は不合理といわざるを得ない。そうすると、仮に残金が別途支払われたとしても、その支払日及び金額を確認することはできないから、その支出を永井らの負担に帰せしめることはできない。

よつて、土地ボーリング調査料については、右四〇万円を限度としてこれを認めることとする。」

9  同一三枚目表一行目から同一五枚目表二行目までの全文を次のとおり改める。

「12 貸金・諸費用等目録記載二10(エム・エー建築企画 企画料及び賃借人立退費用)

《証拠略》によると、ミナミ建設がエム・エー建築企画に対し、本件マンション建築実現のための企画料及び賃借人立退のための費用として、昭和五八年一一月三〇日に五〇〇万円、昭和五九年二月二八日に五〇〇万円を支払つたかのように処理されている。

しかし、その実質が何であるかについて、青木常雄は、別件証人調書において「設計料設計企画料」と述べ、前掲川口証人は、借家人との立退に関する交渉料と述べ、ミナミ建設代表者は、マンション販売のための販売業者の選定やトラブルの解決等に関する費用と述べるなど、必ずしも一致しておらず、その内容を具体的に把握することは困難である。そして、前判示のとおりエム・エー建築企画はミナミ建設と密接な関係があること(《証拠略》によると、青木常雄自身がミナミ建設の子会社みたいなものと述べているほどである。)をも併せ考慮すると、本来ミナミ建設が本件マンション建築計画を遂行するために自己の負担において行わなければならない事項を子会社的なエム・エー建築企画に行わせていただけであるともみられるのであり、少なくとも本件マンション建築にとつて必要やむを得ないのであり、永井らの負担に帰すことが相当である支出というには疑問が残るといわざるを得ない。

したがつて、これを永井らに請求し得る費用とすることはできない。

13 貸金・諸費用等目録記載二11(加藤建材店 建物修理費用)

右費用として昭和五九年一一月三〇日に三九〇〇円を支払つたことは当事者間に争いがない。

14 貸金・諸費用等目録記載二12(光和木材 建物修理費用)

右費用として前同日に四七〇〇円を支払つたことは当事者間に争いがない。

15 貸金・諸費用等目録記載二13(京王百貨店 近隣挨拶手土産代金)

右費用として昭和五九年一月九日に三〇〇〇円を支払つたことは当事者間に争いがない。

16 賃金・諸費用等目録記載二14(幸福不動産 マンション建築のための駐車場使用料)

右費用として昭和五八年七月一二日に八〇万円、昭和五九年五月二六日に三〇万円を支払つたことは当事者間に争いがない。

17 貸金・諸費用等目録記載二15(清水みつら 本件土地上の建物賃借人の仮店舗費用)

右費用として昭和五九年五月三一日に二一万七二〇〇円を支払つたことは当事者間に争いがない。

18 貸金・諸費用等目録記載二16(振和電機 本件土地上の建物の賃借人宅空調機械の修理費用)

右費用として昭和五九年六月三〇日に三万円を支払つたことは当事者間に争いがない。

19 貸金・諸費用等目録記載二17(株式会社アルス設計 企画仲介料)

《証拠略》にはミナミ建設の主張に沿う記載があり、ミナミ建設代表者は、原審における代表者尋問において、株式会社アルス設計がラフプラン程度の図面を書いた旨述べている。

しかし、他方、右の支払は、同社がミナミ建設に本件マンション建築計画を持ち込んだことに対する謝礼と理解されるかのような供述をしているばかりでなく、《証拠略》もこれと同旨の証言をしているのであつて、これらに照らすと、結局紹介料的な意味合いしか持つてないといわざるを得ず、本件等価交換合意に基づく支出として永井らに負担させるべき費用と認めるのは困難である(したがつて、主たる争点4については判断するまでもない。)。

20 以上によると、3、4、7ないし11、13ないし18において認定した諸費用は、ミナミ建設が本件等価交換合意に基づき、同合意の実行のために支出した必要やむを得ない費用であるものと認めることができる。その結果、永井らがミナミ建設に対し、連帯して支払義務を負うのは次の各金員である。

(一) 貸金

・三三二一万三七六七円

・右金員に対する昭和六一年六月二九日から支払済みまで年六分の割合による金員

(二) 諸費用

・三三六二万七四五〇円

・右金員の内金二六〇〇万円に対する昭和五八年三月三〇日から支払済みまで年九分の割合による金員

・内金三五〇万円に対する同年一二月二七日から、内金三〇万円に対する同年一一月二〇日から、内金四〇万円に対する同年一二月三〇日から、内金七七万円に対する同月二〇日から、内金七四〇〇円に対する同月六日から、内金一万二〇〇〇円に対する同年一一月二一日から、内金三九〇〇円に対する昭和五九年一一月三〇日から、内金四七〇〇円に対する同月三〇日から、内金三〇〇〇円に対する同年一月九日から、内金一一〇万円に対する同年五月二六日から、内金二一万七二〇〇円に対する同年五月三一日から、内金三万円に対する同年六月三〇日から各支払済みまで年六分の割合による金員」

二  主たる争点5について

1  自働債権(一)

先に第二の二項(当事者間に争いのない事実及び付随的争点に対する判断)の10において判示したとおり、ミナミ建設は、遅くとも昭和六〇年一〇月一日までに、昭子所有に係る本件三(二)の建物の占有を開始し、その後これが取り壊された平成五年二月までの間占有していたものである。

ミナミ建設は、本件等価交換合意に基づき永井らに対して有する債権を保全するため及びマンション建築計画を遂行するため右建物を占有していたので違法性がなく、不法行為は成立しない旨主張するけれども、前判示のとおり永井らはこれに先立つ昭和六〇年六月一二日には既に本件等価交換合意を解約する旨の意思表示をしており、清算を要する段階に入つていたのであるから、もはや右のような目的のための手段として建物を占有することは許されないというべきであり、違法性が阻却されると解することは到底できない。

そして、《証拠略》によると、右建物の賃料相当損害金は月額四万三〇〇〇円を下ることはないと認められるから、その所有者である昭子には、遅くとも昭和六〇年一〇月一日から平成五年一月末日までの間、右金額に相当する損害が生じていたと認めることができる。

そこで、これを各年ごとに計算すると、昭和六〇年は三か月分の一二万九〇〇〇円、昭和六一年から平成四年については各一二か月分の五一万六〇〇〇円宛、平成五年については一か月分の四万三〇〇〇円となり、その総合計は三七八万四〇〇〇円となる。

2  自働債権(二)

前判示のとおり、永井らは、昭和五九年一二月ころ本件土地上に駐輪場の建設を計画したものの、ミナミ建設の妨害によりその完成が遅れ、実際に開業できたのは翌年八月下旬であつたところ、《証拠略》によると、右駐輪場の新設工事は一か月程度あれば完成すると認めることができ、これに開業準備に必要な期間を考慮すると、右の妨害により遅延した期間は七か月とするのが相当である。

なお、ミナミ建設は、永井らが右駐輪場新設工事を開始しようとしたときには、未だマンション建築計画の中止が確定していなかつたので、右計画を遂行するため駐輪場開設を阻止するのは違法ではない旨主張するが、前掲各証拠によれば、右の時点においては、本件等価交換合意の解約の意思表示まではしていないものの、既に清算交渉が開始されていたのであつて、このような事情の下で新たに駐輪場の開設を企図しても非難するには当たらず、むしろこれを実力で妨害する行為が違法であることは明らかである。

ところで、永井らは、右駐輪場開設遅延による損害を一か月当たり九〇万円と主張する(《証拠略》によれば、一台当たりの利用料金が三〇〇〇円で少なくとも三〇〇台分の収入が得られたものとして算定している。)が、経費等を考慮した上で控えめに逸失利益を算定すれば、その三分の二の六〇万円をもつて一か月当たりの逸失利益とするのが相当である。

また、《証拠略》によれば、右工事の妨害及び遅延に伴い永井らが五〇万円の費用の支出を余儀なくされたと認められる。しかし、ミナミ建設による建設機械の破壊により永井らが五〇万円の損害賠償をしたことを認めるに足りる証拠はない。

以上の不法行為に基づく損害賠償額は合計四七〇万円である。

3  相殺の方法及び充当後の残債権

永井ら三名は、前記の各自働債権をもつて貸金・諸費用等目録記載二1の和解金に関する債権の元本と相殺すべきものと主張する。

しかしながら、相手方に債権が数個存在する場合において、相殺の意思表示をする者は、そのいずれに対して相殺するかを自由に選択することができるけれども(民法五一二条による四八八条一項の準用)、受働債権について元本・利息(遅延損害金を含む。)・費用があるときは、費用・利息等・元本の順序で相殺充当すべきであり(民法五一二条による四九一条の準用)、相殺者の指定により右の順序を変更することは許されないと解される。

そこで、本件についても、前記の和解金に関する請求権を受働債権とする場合には、まず利息から充当すべきこととなる。

ところで、各自働債権の相殺適状の日を基準として、それまでに発生した受働債権の利息(昭和六一年六月二二日以降については同率の遅延損害金)と対比してみると、いずれの時点においても自働債権額は利息金額に満たず、結局、自働債権(一)及び(二)(合計八四八万四〇〇〇円)でもつて、和解金に関する債権二六〇〇万円に対する昭和五八年三月三〇日から昭和六一年一一月一二日までの年九分の割合による利息・遅延損害金(合計八四八万一六九八円)と同月一三日分の遅延損害金のうち二三〇二円に充当されることになる(一日当たりの遅延損害金額は六四一〇円であるから、同日の残額は四一〇八円)。

したがつて、右相殺後の受働債権の残額は次のとおりとなる。

・元本二六〇〇万円

・昭和六一年一一月一三日分の遅延損害金の残金四一〇八円

・二六〇〇万円に対する昭和六一年一一月一四日から支払済みまで年九分の割合による遅延損害金

三  主たる争点6について

原判決一八枚目表八行目から同裏六行目までに記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

四  主たる争点7について

原判決一九枚目表八行目から同裏二行目までに記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

なお、ミナミ建設は、本件等価交換合意に基づいて種々の事項を遂行してきたので突然解約されれば、不測の損害を被ることになるから、解約し得るのはやむを得ない場合に限られると解すべきである旨主張するが、前判示のとおり永井らによる解約に先立ち契約当事者間で清算交渉が開始されていたのであるから、ミナミ建設が不測の損害を被るおそれがあるということはできず、右主張はその前提を欠き、失当である。

五  結論

以上の次第で、ミナミ建設の永井らに対する甲事件の請求は、主文第一項1掲記の限度で理由があるので、右部分について認容し、その余は失当として棄却すべきである。したがつて、これと異なる原判決主文第一項及び第三項は一部不当であるところ、本判決主文第一項の認容部分は原判決主文第一項の認容部分より少ないから、ミナミ建設の控訴中原審甲事件請求に関する部分は理由がないので、永井ら三名の控訴に基づき原判決を本判決主文第一項及び第三項のとおり変更することとする。

次に、里う及び昭子のミナミ建設に対する乙事件請求はいずれも理由があり、これを認容すべきであるので、これと同旨の原判決主文第二、三項は正当であるから、ミナミ建設の控訴は理由がなく、これを棄却すべきである(ただし、原判決主文第三項2及び3に係る建物の明渡及び賃料相当損害金の請求は訴えが取り下げられたため失効した。)。

そこで、訴訟費用の負担について、民事訴訟法九六条、八九条、九二条、九三条を適用し、仮執行宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 丹宗朝子 裁判官 新村正人 裁判官 斉藤 隆)

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